1 主要産業動向
(1) 石油生産・精製
1932年,湾岸諸国の中でいち早く石油採掘に成功し,以来バーレーン経済は石油産業を中心に発展してきたが,石油埋蔵量・生産量共に他のGCC諸国に比較して極めて小さい。バーレーンの石油生産は1970年代初めをピークに減少に転じ,現在,オンショアの石油生産は4.5万バレル/日,オフショアはサウジアラビアとの共同開発で15万バレル/日となっている。09年12月,新たな石油会社であるタトウィール社が設立され,最新の技術を導入してオンショアの原油・ガス生産を回復させる取組が進められている。今後20年間でオンショアの石油生産を10万バレル/日に引き上げることが目標とされている。
また,バーレーンは1930年代から石油精製に進出しており,サウジアラビアからの輸入原油を含め、バーレーン石油公社(バプコ)の製油所で精製を行っている。精製能力は25万バレル/日であり,その大半が国外に輸出されている。なお07年12月,日揮(JGC)によるLSDP(低硫黄経由製造) ユニットが稼動し,環境規制の厳しい欧州に良質な軽油の出荷が可能となった。
(2) アルミニウム精錬
バーレーンは石油精製と並ぶ重要産業としてアルミ精錬の育成にも力をいれている。国営アルミ精錬企業であるアルバ(アルミニウム・バーレーン社)は,1997年には第三次拡張計画が完了し,年間52万トン体制が整えられた。更に,第5生産ラインが2005年9月に完成し,年89万トンの生産能力を有するアルミ精錬会社となった。現在,第6生産ラインの増設のための検討が行われている。
精錬されるアルミ魂の約50%は国内の加工業者に販売されている。現在バーレーン政府は,新たな輸出部品としてアルミ製品を最有力視しており,品質の改善等,アルミニウム川下産業の育成に力を入れている。
(3) 金融
1970年代半ば,レバノンの内戦を受け中東の金融センターの立場を奪取すべく,政府は外国企業誘致政策の一環としてオフショア活動に限定して免税会社の設立を許可した(バーレーン資本の参加不要)。これにより,数多くの銀行,証券,商社等が中東地域の拠点として事務所を置くこととなったが,中でも銀行は各国の主要行が進出し,当国は第一次及び第二次石油ブームで発生した豊富なオイル・マネーを集める中東の金融センターとして発展した。
他方,04年のドバイ・フィナンシャル・センターの設立とドバイの一連のインフラ開発プロジェクトに伴い,多くの金融機関がドバイに地域の拠点機能を設置し,バーレーンの金融ハブとして地位の維持が課題となっている。このため政府は,中東の金融センターとしての地位の確保のため,国家最重要プロジェクトとして,13億ドルを投じてバーレーン・ファイナンシャル・ハーバーを建設した(第一期工事は2007年初頭に完成)。
透明性が高く堅実な中央銀行の金融政策と併せ,金融分野における経験と人材の蓄積・人材の育成などが,バーレーンの金融センターの強みとなっている。12年,金融セクターは当国GDPにおいて17.1%を占め,石油セクター(19.0%)に次いで大きなシェアを構成 している。
2 インフラ
(1) 運輸
当国は以前から湾岸地域に於ける交通の中心地としての地位を占めてきた。 しかし近年,エミレーツ航空をはじめとした近隣諸国の航空会社の発展と成功が顕著であり,また,海運についてもドバイのジュベルアリ・フリーゾーンが発展する中,運輸・物流のハブたる地位は相対的に低下している。このため,地域のハブ機能の強化を図るべく空港及び港湾の拡張等の大型プロジェクトが進行している。
?@バーレーン国際空港は,総額47億ドルに及ぶ空港ビルも含めた拡張プロジェクトを進めている。年間利用客数(トランジット含む)を現在の900万人程度から1350万人程度に拡大することを目標としており,完成は2015年を予定。
?A海運については,ミナ・サルマン港に代わるハブ港として,09年12月,ヒッド工業地区(バーレーン国際投資パーク:BIIP)の開発計画に付随して水深15メートル級の総合港湾施設(ハリーファ・ビン・サルマン港)が開港した。また港周辺にロジスティクゾーンを設置し,物流機能の強化を図っている。
?B陸運については,1986年サウジとの連絡橋として建設されたコーズウェイにより,GCC諸国からの来訪者が急増し,当国政府が注力している観光業に寄与している。1999年7月に老朽化が確認されたムハラクとマナーマを結ぶシェイク・ハマド・コーズウェイについては補強工事が完了したことに加え,ヒッド工業地区とミナ・サルマン港を結ぶシェイク・ハリーファ・コーズウエーが完成し,国内の交通網整備が進められた。ミナサルマン交差点の工事も完了し,ヒッド工業地区からサウジに通じる物流の円滑化が図られているが,サウジとのコーズウェイの渋滞問題が深刻化している。また,カタールとの間では,国境紛争の解決後,両国間を結ぶコーズウエー(全長約46キロメートル)の建設について両国間の協議により計画が押し進められていたが,2008年5月の第8回バーレーン・カタール高等合同委員会の場で協定が締結され,建設が正式決定した。しかしながら,08年後半の経済危機や公表されない様々な事由により,両国間政府,またコントラクター間で具体的な進め方について合意に至らず,現在においても着工に至っていない。
(2) 通信
通信網の整備,通信速度の向上に積極的に取り組んでいる。バーレーン国営電気通信会社(バテルコ)は人口増加とともに通信ネットワークの拡張・改良投資を実施し,国際間通信ケーブルの容量拡大プロジェクトを進めるとともに,4G・LTEといった高速データ通信サービスの提供を開始している。また,政府は早くから通信市場の自由化に乗り出しており,2002年に通信事業者の監督・ライセンス管理を目的とした電気通信規制庁(TRA)を設立。03年にクウェート系のザイン(Zain:旧MTC−VODAFONE),10年2月にサウジテレコム出資によるビバ(VIVA)に携帯電話事業ライセンスを付与した。
(3) 電気・水
人口増加及び国内の大型プロジェクトによる電力・水需要の増加に対応すべく,政府はIWPP(独立造水・発電事業者)プロジェクトを積極的に進めた。アル・ エゼルIPP(950メガワット)の他,住友商事が出資しているヒッドIWPP(1000メガワット),また11年にIWPPにより建設されたアッドゥール造水・ 発電所(1234メガワット)が稼働しており,電力・水の供給能力を増強している。現在,バーレーンの発電能力は3923メガワットであり,造水能力は2億500万ガロン/日である。
3 商業
(1) 日本・バーレーン貿易額(単位:百万米ドル)
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2005年 |
2006年 |
2007年 |
2008年 |
2009年 |
2010年 |
2011年 |
2012年 |
2013年 |
対日輸入 |
430 |
540 |
676 |
932 |
436 |
587 |
470 |
811 |
764 |
対日輸出 |
317 |
538 |
430 |
415 |
524 |
659 |
723 |
477 |
396 |
貿易額 |
747 |
1,078 |
1,106 |
1,347 |
960 |
1,246 |
1,193 |
1,288 |
1,160 |
【出典:日本財務省貿易統計】
(2) ビジネス環境
当国はアラビア湾の中心に位置することから,古来より湾岸地域の中継貿易地として発展した。現在でもアラビア湾内の交易中継地となっており,カヌー,ザイヤーニ,モアイヤド等の古くからのバーレーン人有力財閥が商業活動をリードしている。これらの企業は外国企業の代理店となり、外国製品の国内向け販売を独占する場合も見受けられるが,1998年3月商業代理店法が改正され独占販売代理店制度から複数代理店制度へ移行した。
また,政府は海外からの直接投資を誘致するため,1993年に「バーレーン・プロモーション&マーケティング委員会」を設立した。その後,2000年に最高経済開発委員会と合併し,バーレーン経済開発委員会(EDB)(議長:サルマン皇太子)が成立した。国家経済開発戦略の立案や監督など,経済政策の司令塔的な役割を果たしてきたが,2011年の政情不安を機に各省庁がそれぞれ経済政策を進める傾向が強くなっている。
なお,投資先としてのバーレーンの優位性は以下の通り。
・外国資本100%の企業設立の認可
・事業認可の手続が簡素でコストが安価
・EDBによる丁寧なサポート
・個人所得税,法人税,源泉徴収税,付加価値税免除
・資本,収益,配当金の国外移転の自由
・外国人による特定地区の不動産の所有
・GCC域内への輸出関税免除
・製造用の原材料,機器,半製品,再輸出用物資などの輸入関税免除
・中東地域における金融サービスの中心地の一つ
・交換自由でしかも,米ドルに完全にリンクした通貨(バーレーン・ディナール)の 安定性
・米国とのFTA発効(2006年)
・周辺都市と比較してビジネス・生活コストが安価
・バーレーン人の教育水準の高さ,他の湾岸国民と比較する限り勤勉
・大規模市場であるサウジとの地理的近接性
(3) その他
当国では,工業所有権,商標,意匠,著作権法に関する法律は整備済。1995年2月,世界知的所有権機関(WIPO)に加盟した。1993年,政府は外国人による就業禁止業種を制定し,当国人による外国人への商業登記貸与を防ぐ為に商業登記手続きを厳しく運用している。また,1939年に商工会議所が設立されており,近年の湾岸地域の商取引拡大に伴い,1993年5月商工会議所内にGCC商業仲裁センターが設立された。
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